2024.09.24

東山動植物園 飼育第ニ係 藤谷 武史さんのSDGs

ナゴヤダルマガエル

シリーズ:絶滅危惧種を考える

2024.09.24

番組では月に一度、東山動植物園で飼育している「絶滅危惧種」にスポットをあてて紹介しています。今月は、ナゴヤダルマガエル。
名前に「ナゴヤ」とついているんですが、一体、どんなカエルなんでしょうか。そして名古屋とのつながりは何でしょうか。東山動植物園 飼育第二係の藤谷 武史さんにお話をうかがいました。

生息域で「名古屋種族」と「岡山種族」が存在

写真提供:名古屋市東山動植物園

「トノサマガエル」によく似ていますが、トノサマガエルに比べてやや小さいのと、身体の斑紋の特徴に違いがあります。トノサマガエルの背面は黒い斑紋が大きくつながり(雌だけの特徴)、腹側は白く斑紋がありません。一方、ナゴヤダルマガエルの背面は、黒い斑紋が一つずつ独立しており(雌雄共通)、腹側にも細かい黒い斑点や薄黒い斑紋がみられます。また、この地方のトノサマガエルは、背中の中心に鼻先からお尻にかけて「背中線」と呼ばれる線が必ずありますが、ナゴヤダルマガエルはこの線が無い個体が多く、これが大きな特徴です(一部の地域には、背中線がある個体群もいる)。
主に平野部の水田やレンコン畑などに生息していて、トノサマガエルよりも水辺への依存性が高いので、水田周りからは遠く離れません。(トノサマガエルは山間部にも生息)。
中部地方の長野県西部から近畿地方、山陽地方の瀬戸内沿いで広島県東部までと四国の一部に生息しています。ナゴヤダルマガエルは、東西で遺伝的に二分していることが最近になって分かってきました、中部から近畿地方にかけての個体群を「名古屋種族」、瀬戸内沿いの個体群を「岡山種族」と呼んでいます。実は、この2つの種族で鳴き声が少し違います。名古屋種族は「ギーギーギーッ」と鳴くのに対して、岡山種族は「ギャーギャーギャーッ」。個人的には、名古屋種族のほうが鳴き声に品があるように感じています(笑)

どうしてナゴヤの名前がついているの?

写真提供:名古屋市東山動植物園

「トノサマガエルに似た、違う種類が存在するのではないか?」と、1941年に名古屋帝国大学(現名古屋大学)の伊藤龍(りゅう)先生によって、詳細な調査が本格的に行われ、新種として発表されたのが名古屋だったんです。「ナゴヤダルマガエル」は、「トウキョウダルマガエル」という関東に広く分布している亜種にあたります。「トウキョウ」に対して分かりやすくするために、ナゴヤダルマガエルの和名が最近になって定着したと思われます。「ナゴヤ」の名前がついているのに、私が聞いた限りでは、名古屋在住の方にもあまり知られておらずちょっと寂しいですね。

水田の減少が絶滅危機の原因に……

藤谷 武史さん(写真提供:名古屋市東山動植物園)

2020年に環境省の絶滅危惧種に指定されました。水田の減少が一番の原因だと考えられますが、農法の近代化の影響も大きいです。水田の用水路がコンクリート護岸化され、一旦、用水路に落ちると、後ろ足が短くてジャンプ力が弱いナゴヤダルマガエルは抜け出せなくなります。また、稲作の効率化のために田んぼに水を張る時期を遅くすると、本来なら重ならないはずのトノサマガエルとナゴヤダルマガエルの繁殖期が重なってしまうんです。自然交雑が起こってしまうのも、種の存続が危ぶまれている一因だと考えられます。
岡山種族に比べて、まだ名古屋種族は比較的安定した個体群が保たれているといわれていますが、名古屋市内に関しては危機的状況で、名古屋市が独自に作成したレッドリストでは「絶滅危惧種ⅠA類」に分類されています。東山動植物園では名古屋市内の個体群の生息域外保全(自然の生息地ではなく、動物園など安全な施設に生きものを保護して、それらを増やすことで絶滅を回避する方法)にも取り組んでいこうと考えています。
地球上で小さな生きもの1~2種が絶滅したところで、すぐには何も変わらないと思うかもしれませんが、ただ、これを繰り返していけば、必ず私たちの生活も影響をうけます。「ナゴヤ」と和名でついている脊椎動物は非常に珍しいです。地元の名前が付いた生きものに親しみをもってもらい、さまざまな生きものに関心を持ってもらえるよう、啓発を続けていきたいと思っています。

施設名:名古屋市東山動植物園
所在地:〒464-0804 愛知県名古屋市千種区東山元町3-70
電話:052-782-2111
公式サイト:www.higashiyama.city.nagoya.jp
Youtubeチャンネル:www.youtube.com/user/HigashiyamaPark
開園時間:9:00~16:50(入園は16:30まで)
休園日:月曜日(祝日の場合は直後の平日)、12/29~1/1

※ナゴヤダルマガエルは、自然動物館にて展示飼育されています。
取材先

東山動植物園 飼育第ニ係 藤谷 武史さん

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「すぐわかるSDGs」では、SDGsの17の目標をイラスト付きで分かりやすく解説しています。気になるゴールを押すと、目標の解説を1分程度で読むことができます。この記事に登場したSDGsを見てみましょう。

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