東山動植物園のアジアゾウ「アヌラ」に、待望の第2仔が誕生しました。
同園の広報パートナーであるブラザーでは、獣医師でもある内藤飼育第一係長と、辻飼育係員にもインタビューを実施。アヌラの出産を取り巻く様々な思いについてうかがいました。
動植物園の存在意義
今、自然界では人間活動の影響によって動物や植物が減っていっています。その中で動物園が求められる役割は何か、と問い直した時に、「生息域外保全」といって、本来の生息地が壊されていく中、動植物園で種を繋いでいく。そして、現地の野生環境が改善した時に戻すことができる『ノアの方舟』的な役割があります。また動植物園は「自然への窓」という扱いでよく語られるのですが、動物や植物が絶滅していく、その一番の原因は、やっぱり無関心にあると思うんですね。もし少しでも関心を持っていれば、自分の行動に何か変化が起きる。そういったきっかけを与えられる施設が動植物園かなと思っています。(内藤 仁美 様)
アヌラの二回目の出産を通して叶えたいこと
大型の動物で出産を見ていただくというのはすごいことだと思うし、感じ方は人それぞれだと思いますが、私個人としてはその出産という大きな行事をさくらに見せたいです。さくらに出産、子育てを見せる、それがすごく大事なことで、次にさくらが産むときに今回のことが役に立つように、しっかり見せていきたいと思っています。「種の保存」、「生息域外保全」という役割を動物園が担うことは、日本で生まれたさくらが次の世代を残すということができない限り続かないと思います。さくらが次の世代を残せるように、僕らはやっていかなきゃいけないと思っています。(辻 信義 様)
飼育動物を野生に戻す活動
日本では、有名なところではトキを野生復帰させようという試みが実際されていますが、動物園はまず日本国内でできることから始めていっています。当園では、まだ野生復帰までは至っていませんが、環境省とタイアップしてツシマヤマネコの繁殖を、将来的には現地に戻したいというロードマップに沿って取り組んでいます。
東山動植物園にある世界のメダカ館でも、「イタセンパラ」という、東海地方にしか生息していないきれいなタナゴがいるのですが、それを現地に戻すというような取り組みも、なかなかマイナーなためPRしても伝わらなかったりするんですけど、頑張ってやっています。(内藤 仁美 様)
環境問題がゾウに与える影響
環境問題は一人一人の行動が変わることでしか改善が見通せないと思っていますが、現地の方の生活ももちろん大事ですし、どっちが悪いとか、どっちがいいとかいう問題で片付くものではないと思っています。ただ日本人がこのアジアゾウ、スリランカのゾウを見て、現地に思いを馳せる、遠い国ですが実は日本人の生活が何らかの形でゾウに関わっていることがあると思うんですね。
スリランカに限ったことではありませんが、例えば東南アジアでは原生林を切り開いてパームオイルを栽培していて、その大半を日本人が植物油として使っていることはあまり知られていません。同じようにインドネシアのスマトラ島でも、トラやオランウータンの生息地が切り開かれているのですが、遠い日本で生活している私たちはそういうことを知る機会があんまりないと思うんです。動物園に足を運んでこられた人に、ここの動物を通して、現地がこうなっていますよということを伝えられるので、動植物園では環境教育に力を入れていくことが大事だと思いますし、やれることはいっぱいあると思います。(内藤 仁美 様)
施設名:名古屋市東山動植物園
所在地:〒464-0804 愛知県名古屋市千種区東山元町3-70
電話:052-782-2111
公式サイト:www.higashiyama.city.nagoya.jp
開園時間:9:00~16:50(入園は16:30まで)
休園日:月曜日(祝日の場合は直後の平日)、12/29~1/1
アヌラの出産を通して学ぶ動植物園の役割
- #1 動物園の存在意義 動物園長 獣医師 黒邉様
- #2 絶滅危惧種の深刻な状況 動物園副園長 茶谷様
- #3 環境問題がゾウに与える影響 飼育第一係長 獣医師 内藤様、飼育第一係 辻様(今回)
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