2023.06.06

環境省奄美群島国立公園管理事務所 所長 阿部 慎太郎さんのSDGs

生きた化石・アマミノクロウサギ

2023.06.06

今年(2023年)はうさぎ(卯)年。日本には特別天然記念物に指定されているウサギがいます。鹿児島県の奄美大島と徳之島にしか生息しないアマミノクロウサギ。「生きた化石」ともいわれています。環境省奄美群島国立公園管理事務所 所長の阿部 慎太郎さんにその生態についてお話をうかがいました。

アマミノクロウサギのユニークな生態

アマミノクロウサギ(画像は環境省奄美群島国立公園管理事務所提供)

現在生息しているウサギ科の中でもっとも原始的な体型をしています。体長は40~50センチ。身体の毛は黒っぽくて、本土に生息するノウサギに比べると耳も短くて足も短い。奄美大島や徳之島が地殻変動でユーラシア大陸から切り離される前から生息し、島で独自の進化を遂げてきました。「生きた化石」といわれるゆえんです。基本夜行性で、昼間は自分でつくった巣穴、もしくは岩の隙間で寝ているんですが、夜そこから出てきて活動し、周辺の草などを食べて生活しています。子育てが大変ユニークで、子供用の巣穴を自分用とは別にひとつ、作ります。お母さんは出産の後、その巣穴の入口を土で固めてしまうんです。その後は2日に1回その巣穴を訪れて、穴をあけておっぱいをあげるんです。で、終わるとまた、穴を閉じて2日間放置する、を繰り返して子育てをします。天敵であるハブから身を守るためと言われていますが、現在の観察では、およそ一か月間、こうした子育てをすることがわかっています。

アマミノクロウサギの危機

環境省奄美群島国立公園管理事務所所長 阿部 慎太郎さん

1970年代から1980年代にかけて、島内の機械による森林伐採が進み、森の環境が大きく変わってしまい、大きく数を減らしたことがありました。さらにもうひとつの原因が、マングース。1979年ごろ、ハブを駆除するためにマングースが沖縄から奄美大島に連れてこられたんですね。マングースが島に定着すると同時に、アマミノクロウサギはどんどん姿を消していきました。これは、アマミノクロウサギだけでなく、島の固有の小動物(トゲネズミやカエル)なども同様です。また、島での飼い猫が山に行って野生化し、ウサギやそうした小動物をとらえて食べるという問題も起きています。島という小さなエリアでは、こうした変化はあっという間におこってしまうんです。

閉ざされた地域での固有種を守る

大和村にてクロウサギ侵入防止フェンスを設置

2000年代に入って、極端な森林伐採は亡くなりましたが、2017年に、陸域に奄美群島国立公園というのを作りました。国立公園で保護された地域は、伐採が厳しく管理されています。マングースに関しては、2000年から駆除事業が始まり、2018年に最後の1頭を捕獲。その後確認されていないので、根絶できたのではと考えられています。飼い猫の管理指導もすすんできました。そんな中、アマミノクロウサギは、分布域も回復してきていますし、生息数も以前調査を行った2003年の時点に比べて(2003年推定・奄美大島2000~4800頭 徳之島100~200頭)数倍に増えてきていると思っています。
奄美大島には、もともとマングースや猫などの肉食獣はいませんでした。ですから、彼らから身を守る術(すべ)をアマミノクロウサギはもっていません。必要なかったからです。私たちは、奄美で数百万年も前に切り離された生き物たちと暮らしていることを知らなくてはいけません。彼らが、本来あった生物相を保って、これからも末永く暮らしていけるような環境をつくっていくことが大切なんだと思います。

取材先

環境省奄美群島国立公園管理事務所 所長 阿部 慎太郎さん

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