東山動植物園のアジアゾウ「アヌラ」に、待望の第2仔が誕生しました。
同園の広報パートナーであるブラザーでは、獣医師でもある茶谷副園長にインタビューを実施。アヌラの出産を取り巻く様々な思いについてうかがいました。
絶滅危惧種の深刻な状況
地球上の野生の動植物で、絶滅の危機に瀕している種がかなりたくさんある中で、これの大きな原因は、ほとんど一つですが、ヒトの活動が影響しています。
地球には生物の多様性があって、その中で生態系が構築され、生きものの営みがあって人間の生活もできているという中で、ある特定の動物がいなくなってしまうと、そのバランスが崩れて、我々の生活もうまくできなくなるという心配がされています。
地球上の自然のバランスを保つために種を守っていかないといけない。それはどの種と限っている訳ではなくて、バランスを維持する歯車の一つとして種を守らなければならないのですが、その歯車を壊そうとしているのが人間の生活なのです。
今度は我々が自然から受けた恩恵を、恩返しするということで、自然に対して何か活動していかなければいけないですよね。今回のアジアゾウの出産もその活動の一つになります。
アジアゾウの出産の困難とは
動物園で動物を飼育する上で一番大事にしなければいけないのは、自然で暮らしている姿をいかに動物園の中で再現するかです。普段どのように生活しているかだけではなく、繁殖についても野生での暮らしがそのまま直結してきます。
アジアゾウの場合、野生では、血縁関係のあるメス中心の群れで暮らしています。20頭から30頭ぐらい。その中で出産というのは物凄くきつい陣痛を伴います。パニックを起こしてしまうぐらい。その時にどうするかというと、お母さんゾウがパニックになって、勘違いをしてしまって、陣痛の原因がこの子だということで、出産後に赤ちゃんゾウを攻撃をしてしまったりとか、育児放棄をしたりということがあるのです。
野生のメスの群れの中であれば、出産経験のある先輩ゾウがそこに来て、「違うよ、これはあなたの赤ちゃんなんだよ」と教えてくれます。ただ、現段階ではそんな大きな群れは東山では飼っていませんし、出産を教えてくれる先輩のメスゾウがいない。2013年にアヌラがさくらを出産する時にも、その先輩ゾウの代わりは飼育員しかいないんですね。動物園においては、動物たちに野生本来の生活をさせたい一方で、不十分な部分は飼育担当者がケアなりフォローアップする必要があるのですが、繁殖もそうなのです。
「地球のいのちに出会う森」東山動植物園
「地球の生命に出会う森」という東山動植物園のメッセージは、めずらしい、たくさんの種類の動物に会える動物園という意味ではありません。東山動植物園では動物については130種ほどの絶滅危惧種を飼っています。他の動物園では飼っていない動物もいくつかいる中で、何が大事かと言うと、ただ飼っているだけというのは全く意味がない。動物園の役割として、希少な動物、絶滅の危機に瀕している動物を繁殖させて、いのちを未来に繋いでいって、将来的には荒廃した自然が、森が元に戻った時に、何十年、何百年先かもしれませんが、そこに動物を戻して自然を回復させるストックをする。ストックして、それをずっと維持し続けるというのが動物園の役割なんですね。
東山動植物園ではその活動を見ていただきたいです。そこで自然のいのちに出会っていただいて、動物園がどんな活動をしているのかも知っていただいて、その動物たちを長い未来、遠い未来に自然に戻すために、来園者の方々、私たち人間全てが、どういうことをしたらいいかというのを考えてもらいたいのです。それが「地球のいのちに出会う森」というメッセージの本当の意味になります。
施設名:名古屋市東山動植物園
所在地:〒464-0804 愛知県名古屋市千種区東山元町3-70
電話:052-782-2111
公式サイト:www.higashiyama.city.nagoya.jp
開園時間:9:00~16:50(入園は16:30まで)
休園日:月曜日(祝日の場合は直後の平日)、12/29~1/1
アヌラの出産を通して学ぶ動植物園の役割
- #1 動物園の存在意義 動物園長 獣医師 黒邉様
- #2 絶滅危惧種の深刻な状況 動物園副園長 茶谷様(今回)
- #3 環境問題がゾウに与える影響 飼育第一係長 獣医師 内藤様、飼育第一係 辻様
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