来月に迫る(放送は9月)アジアパラ競技大会。以前、パラアスリートを支える車いすについて取り上げましたが、今回は義足や義手をつくる専門家にスタジオにお越しいただきました。愛知県小牧市にある「松本義肢製作所」の義肢装具士、橋場 義浩(はしば よしひろ)さんにお話をうかがいました。
日常用の義足と競技に特化した義足との違い
これまで、スノーボードの小栗 大地選手(ミラノ・コルティナ冬季パラリンピックで銀メダル)保田 明日美選手(パラトライアスロン 世界ランキング4位)井谷 俊介選手(アジアパラ競技大会出場予定・陸上競技)等の義肢の制作に携わってきました。日常用の義足は、立ったり、歩いたり、家事をしたりといった、生活面の「安定性」と「自然な見た目」を重視して作ります。一方、パラスポーツ用の義足は「走る」「跳ぶ」といったそれぞれのスポーツに特化して作るので、形も素材も全く別物になるんです。日常用もスポーツ用も、足にフィットさせるために硬い強化プラスチックを使いますが、スポーツ用に関しては強度と軽さが求められるため、カーボンファイバーを使用した強化プラスチックで作ります。スポーツ用の義足の裏には、スパイクのようなものがついていたり、形も人間の脚の形とはかけ離れているんですが、人間の持つ力を最大限、義足に伝えることを目指すと、こんな(アスリート用の義足の)デザインになって、それが結果的に美しいということも言えると思います。
繊細で緻密な作業が必要な義肢づくり
手掛けているのは、義足とユーザーの脚をつなぐ「ソケット」と呼ばれる部分です。病院で治療のために作る義足と同じように、残された足の切断端を石膏で型取りし、寸法を測って作っていきます。靴屋さんが靴を作るときのような感じのことをより緻密に行います。筋肉のふくらみや骨の位置の確認、また切断をしているので「神経がどこにあるか?」といったことも医師に聞きつつ、痛みがないように、また、体重を支えないといけないので、選手の脚に直接触れ、相談しながらすすめていきます。そしてその方の義足に必要な、足部や継ぎ手などの部品を世界中から取り寄せて、ソケットに装着し、高さや角度を調整していくんです。また、その方に残っている筋力や身体のバランスにあわせて、リハビリなどの治療と同時並行で(リハビリをするとバランスが整ったり、痛みがなくなったりしていく)微調整を繰り返しつくっていきます。一生歩けないと思っていた方が、義足をつけて歩けてすごく喜ばれたり、もう二度と走れないと思っていた方が、風をきって走れて感激されていたりするのを間近で見られることはとてもやりがいになっています。
スポーツ用の義肢の体験交流会を開催
松本義肢製作所には120年の歴史があります。医療器具の一部として治療のための装具づくりがメインで、アスリートのサポートは仕事のごく一部です。アスリートのための義肢を手掛けるようになって10年以上たちますが、素材自体の進化はもちろん、各競技にあわせた板の形状の開発や、体重にあわせて硬さやしなり方を変えるといった世界中の研究者による技術の進歩はめざましいものがあります。日常用にも、電子制御で指を一本一本動かすことができるような電動義手などもでてきています。20年ほど前は「義足で走る」というのは考えられない世界でした。しかし今も「スポーツ用の義足がありますよ」といってもなかなかそれを使う環境ってないんですね。2013年から三重県の整形の先生が立ち上げた障がい者スポーツチームに参加をさせていただき、リハビリの延長として「走りたいな」「サッカーやってみたいな」という方たちに義肢の体験をしてもらっています。翌年からは、我々の会社のほうでも有志で障がい者スポーツチームをつくって、理学療法士の学生や義肢装具を学ぶ学生、スポーツの専門家などに来てもらって、交流会を開いています。技術の交流はもちろんですが、ユーザーの家族の理解を深めたり、ユーザー同士がコミュニケーションをとったりすることが大切だと思っています。
松本義肢製作所 義肢装具士 橋場 義浩さん
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