車いすテニスのトップアスリートとして注目の小田 凱人(ときと)選手。彼の車いすを製作しているメーカーが、浜松にある橋本エンジニアリングです。1968年創業の金属加工メーカーが、なぜ車いすの製作に携わることになったのか?代表取締役社長の橋本 裕司さんにお話をうかがいました。
世界最軽量の車いすで、業界デビュー!
長年、自動車やオートバイなど輸送機器関係の部品に関する仕事をしていましたが、リーマンショックにより、業界全体が非常に厳しい状況になりました。当時は親メーカーへの依存率が100%だったこともあって会社は倒産寸前となり、苦渋の想いでリストラもしなくてはならなくなったんです。もう二度とこういう状況はつくりたくない、親メーカー依存から脱却し自分たちで生き残る術を見つけなくては、と試行錯誤する中で、車いすにたどり着いたんです。浜松はオートバイの街なので同じタイヤのついているものとして親近感があったこと、また車いすに軽量化の流れがあったことが大きな理由です。オートバイ業界でもレースに使われるマグネシウムという素材を使えば、世界最軽量の車いすが作れるんじゃないかと思いました。車いす業界への参入はかなり後発になるので「選ばれる」ためにはどうしたらいいか。そこで「世界一軽い車いす」でデビューして、業界にインパクトを与えようと考えたのです。病院にある一般的な車いすは18㎏から20㎏くらいですが、当社が開発した世界最軽量の車いすは、6.2㎏。軽ければ乗る人はもちろんのこと、介助する人にとっても操作性が格段によくなりますし、車などに乗せるのにも、とても楽になるのです。
トップパラアスリートとの出会い
(左)田中 愛美選手、(中央)小田 凱人選手の競技用車いす、(右)小田 凱人選手と橋本 裕司さん
開発当初は、競技用の車いすは少しも考えていなかったのですが、車いすテニスの田中 愛美(まなみ)選手から「軽くて強い車いすが欲しい」と突然オファーをいただいたんです。マグネシウムでできた車いすは、競技用でも非常によい効果が出るかもしれない。また東京パラリンピック開催も決まっていましたので、もし田中選手がうちの車いすで出場してくれたら素晴らしいな、と挑戦することにしました。そこからご縁がつながったのが、小田 凱人選手です。田中選手のコーチから「すごいジュニアがいるよ」と紹介されたとき、小田選手は小学校6年生で技術はまだまだでしたが、とにかくアグレッシブで負けず嫌いなところがすごく印象に残りました。すぐにお会いして「うちの車いすに乗ってみないか」と声をかけさせてもらったのです。当時の小田選手は、知り合いの選手から借りた中古の車いすでプレーしていました。小田選手は車いすに乗るときに左足を後ろに下げたほうが姿勢が安定するそうで、左足を下げたいというリクエストをいただいたんですが、車いすの中央を貫くシャフト(軸)がその妨げになります。そこで一般的なシャフトを取っ払った前代未聞の車いすづくりに挑戦させてもらいました。開発には2年近くかかりましたが、中学校2年生のときに一号機に乗って「これです!こんな感じだ!」とすごく喜んでくれました。その後は若干のリクエストによる最低限の調整をしましたが、そこからはとにかく使いこなして自分のものにしていくところが、小田選手のすごいところだと思います。いま2台目に乗っていて、これからようやく3台目をつくるところです。
健常者でも「乗りたい!」と憧れられる車いすを
今後は、築き上げてきた車いすの技術を、障がいを持つ方だけでなく、高齢者の方たちに向けても提供していければ、と思っています。高齢者向けの電動モビリティ。かっこよくて、軽くて、乗りやすくて、見せびらかしたくなるような、そんな「車いす」というより「移動の乗り物」をいま開発しています。また、病院や施設で乗っていただけるような、ゆったりとした介護用の車いすも、これまでの半分以下の軽さで、かっこいいものを。うちはなんといっても「かっこよさ」を追求していきたいです。ケガしたときや、病気のときだけに乗る乗り物ではなく「健常者でも乗りたくなる」ような、そんな車いすを提供したいと考えています。
株式会社橋本エンジニアリング 代表取締役社長 橋本 裕司さん
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「すぐわかるSDGs」では、SDGsの17の目標をイラスト付きで分かりやすく解説しています。気になるゴールを押すと、目標の解説を1分程度で読むことができます。この記事に登場したSDGsを見てみましょう。
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